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大戸屋の「スケソウ鱈と夏野菜の麻辣炒め」が美味すぎる

和食ファミレス大戸屋の提供する2023年夏の新メニュー(8/3〜)の、「スケソウ鱈と夏野菜の麻辣炒め」が美味い。

 

ここでは、くだんの料理がなぜ美味いのか、いかにして美味いのかをご説明するので、大戸屋に行かれる皆様は必要に応じて参考にしていただきたい。

 

 

料理の概要

 

本メニュー(公式HPより)

https://www.ootoya.com/menu/detail/004687.html

 

衣をつけて揚げたスケソウ鱈を、玉ねぎ、茄子、パプリカ、ヤングコーン、ゴーヤ、そして獅子唐と一緒に麻辣風のタレで炒めたもの。

大戸屋看板メニューであるところの「すけそう鱈と野菜の黒酢あん」の野菜・タレ違いと書けばわかりやすいだろうか? ゴーヤや獅子唐といった夏野菜が入っているのが特徴。

 

(ちなみになぜか本限定メニューでは「スケソウ鱈」、定番メニューでは「すけそう鱈」と表記ゆれがある)

 

「麻辣(花椒/唐辛子の痺れ/痛みの辛さ)」とあるが、それほど花椒や唐辛子が強いわけではなく、辛さはいわゆる「ピリ辛」程度もなく、食べやすい。町中華の四川風の味ともかなり異なり、(悪い例えかもしれないが)記憶の中で一番近い味を挙げるならば、「バーベキュー味」と書かれたスナック駄菓子だろうか。火を入れた唐辛子の香ばしさは感じる。なお、中華エアプなので、「これが本当の麻辣じゃい!」というお叱りは甘んじて受け入れます。

クミン……とは違うが、スパイスがどこかカレーっぽくもあり、という感じだ(五香粉の味なのだろうか?)。これが具材と馴染んで美味い。

また、野菜もタレの味に負けない個性的なものが揃っており、夏バテで食欲がなくとも、途中で飽きることなく完食まで楽しめるだろう。油炒めなので食べている最中は結構スタミナ系料理の感があるが、野菜も鱈も脂分は少ないので、食後は穏やかな満腹感だ。

 

生の水菜、レモンを添えて提供される。なお、「黒酢あん」と違って魚の増量はない。

 

白身魚とタレの相性

本メニューは、やはり助惣鱈とタレの相性が良い。口に入れると、まずはタレの辛味・甘味・油のぺたぺた感から始まり、そのタレが衣と一緒にフェイドアウトすると、白身魚の旨味を淡白だが確実に感じる。麻辣タレが辛すぎないため、辛さによって白身魚の味がかき消されるということもない、丁度いい塩梅だ。

 

黒酢あん」でもそうだが、ある程度の旨味はあるものの脂の感が少ない助惣鱈を揚げ、さらに油で炒めることで、油脂の風味・口当たりを補うという調理法は非常に理にかなっているように思う。

 

各野菜の個性

(摂取エネルギ的に)主役の鱈の他にも、見目麗しい野菜にも注目したい。

 

まず茄子だが、上記の写真の通り、油で炒められて表面がてかてかとした茄子の美味しさというのは、言わずもがなであろう。

麻辣タレとの相性も非常によく、最初はタレの味を存分に感じるが、噛み締めていると次第に茄子本来の甘味が出てくる。「黒酢あん」と共通する野菜は茄子と玉葱だけであるが、どちらの味も受け容れる茄子の懐の深さと、しとやかな自己主張の奥ゆかしさよ! 脇役に徹する玉葱とは異なり、料理の基礎となるタレに馴染んでなお、その味を失わないのだ。

 

玉葱は、まあ、甘くて普通に美味い。

 

パプリカも歯ごたえがあって良い。玉葱の火を通した甘さとは別の方向で、フレッシュな甘さがある。ピーマンと異なり、肉厚で、火を通してもへたらないのが今回の料理によくあう。獅子唐はピーマンと食感がよく似ているし、苦味担当はより強烈なゴーヤがいることからも、今回はパプリカが適任だろう。

 

ヤングコーンは、芯の部分(当然可食部位である)が、他の野菜と異なり、それなりに密な構造になっていて、独自の、ぽり、という食感と、タレが染みすぎず適度にコーンの風味を残している。加えて、表面のコーンになるべき部分は凹凸があるため表面積が大きく、タレがよく絡む。食感・口の中で完成する味わいのどちらからも、口楽しい食材だ。

 

火を通した獅子唐は、最初の、ぐに、の後に、ぱり、と嚙み切れるあの食感が好きだ。それなりの苦味も、少しの辛さも、いつもちょうど良く……獅子唐はぶれないなあ、といつも思う。安心感がある。油断するとたまに地獄みてえに辛いのに当たることがあるが……。

 

ゴーヤはその苦味によって強烈な存在感があり、苦手な人も多いであろう野菜だが、油が絡むと苦味がやや緩和されて、とても食べやすくなる。ゴーヤの良いところは、咀嚼すればあの土っぽくもあり青っぽくもある苦さを存分に感じられる一方、ほかの具材にはその味が伝搬しないことにある(加えて、後味の余韻も短い)。つまり、苦味で味覚をある程度リセットして、次の具材をより新鮮な気持ちで味わえるというのが、息抜きになって良い。

 

価格

「麻辣炒め定食」が1320円、「黒酢あん定食」が1000円。ちょっと割高な気もするが、夏野菜に大いなる価値を感じるならまあ妥協ラインだろうか?

 

総評

間違いのない「白身魚+油」でその味を期待させる以上に、それぞれ方向性の違う複数の野菜を、個性を潰さずに麻辣風タレで全部まとめてある、というのが非常に良かった。同じ料理の中にあっても素材の味の違いを楽しむことができた。

 

個人的な好みを言うならば、定番メニューなだけあって「黒酢あん」の方が完成度というか、料理としてのまとまりが良いように思う。しかし、ゴーヤやらヤングコーンやら普段あまり食べない野菜も多く、この時期限定メニューとしては本当に良かった。来年もあったら食べたい。まだ食べたことのない皆さんにもお勧め。

 

おまけ

・淡白な白身魚を揚げることで油を添加する、というのは、フィッシュ・アンド・チップスでも同じで、まあどうあがいても美味しくなるに決まっている。さらに余談だが、フィッシュ・アンド・チップスには穀物酢を振りかける。酢で揚げ物の油臭さを消し、さらに発酵由来の旨味を足すというのは、まさに「黒酢あん」にも共通する。

 

・あんかけや南蛮漬けなど、具材を揚げて、さらに調理して、という料理を自炊で作るというのは、手間と洗い物を考えただけでも頭が痛くなる(し、そもそも揚げ終えた時点で全部食べてしまう)ので……私は絶対やらないだろうから、外食ではつい頼んでしまうところがある。

外食では食材価格のコスパを鑑みて、同じような値段ならチキンではなくビーフを頼む、という考えと同様に、料理あたりの調理時間・手間を基準にメニューを決めるのも面白い。

いや、生姜焼きだって店舗では面倒な下ごしらえを丁寧にやっているだろうが、極端なことを言えば、手を抜いて冷凍豚こまを解凍せず、手を抜いて市販の「生姜焼きたれ」でそのまま炒めたとしても……それなりに美味い生姜焼きは完成する。ところが、手を抜いてあんを作らなければ、あんかけは絶対に完成しない。それはただの揚げ物であろう。つまり、特定の料理をその料理たらしめる工程の数、及びそれらの軽重の程度が大きいものを注文するのが、タイム・イズ・マネーであるところの現代の外食のコスパ主義的な正解、と言えなくもない。

 

・とはいえ、自分が食べたいものを注文するのが一番ハッピーなことである。つまり、コスパコスパと騒がしい我々現代人ではあるが、合理性・効率に先立って、各人の嗜好が価値判断の基準になっているというところを見ると、まだ人は人であるのだなあと思う(ほんまか?)。